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シェーンベルク:浄夜
 最近、特に僕の興味を掴みっ放しで離してくれない曲がある。
表題に挙げたシェーンベルクという作曲家の『浄夜』。
 またもや、こんなにも美しい曲の事を識ってしまった。自分は曲の理解が遅いので、心の中に溶け込むのが時間がかかり、浄夜についてもずいぶん時間がかかった気がする。


 マーラーの『アダージェット』や交響曲10番を思わせる退廃的な、独特の調性感をもち、しかし絶美と呼ぶほかない繊細な美しさがある。もはやこの世ではないかのような不思議な世界。コンクリートから顔を出すど根性○○、砂漠に咲く何某、不毛の地で逞しく生きる○○、などと色々な生命力を謳う表現があるけどこの曲をそのように例えるなら、僕にとっては宇宙のどこかに植えられた花だ。空気も栄養もないのに綺麗に咲く色のない不気味な花。

 この現実から切り離された様な曲には、元となる詩がある。リヒャルト・デーメルという詩人の同名の詩に基づき、書かれた(元々は弦楽六重奏曲。その後に弦楽合奏に編曲されている)。この詩の妖しさは、それだけでもなるほど心を打たれる。以下、ブログ主様の了解を取り詩を引用させていただきます。



  
 浄められた夜


凍えるような枯れ木立の間を歩む二人
月は彼らの歩みに従い
見下ろしている。
天の光を遮る雲一つなく……

女が言う。

「私は身篭っている
あなた以外の人の子を。
私はひどい後悔を抱え
あなたと歩んでいる。

私は自分を傷めつけた。
私は幸福など考えていなかったが
それでも人生の意味を思って
母親としての喜びと務めを必要としていた。

そして慟哭と共に
見知らぬ男に身を任せ
それで自分は祝福されたと思った。

しかし今、人生は私を裏切った!
私はあなたと出会ってしまったのだ!……」


よろめきながら、女は歩んでいる。
見上げると
彼女の瞳に光が挿し込まれた。

男が言う。

「あなたに宿っている命が
あなたの重荷となりませんように。
ご覧なさい、世界はどんなに輝いていることか!
その光は私たちを明るく包んでくれる。
あなたは私と一緒に氷の上を彷徨っている。
しかし、心が真っ赤に熱を帯びて
あなたから私へ、私からあなたへと伝わってくる。

その熱さがあなたの子供を浄めるでしょう。
そしてあなたはその子を産むのです
私がこしらえた子供を。

あなたは私を輝きで浄め
私を子供にしたのだ……」

男は女の腰を包み込む。
彼らの息吹が優しい口づけの中で一つになる。

二人、真夜中の穏やかな光のもとを歩き続けている。





 以上、ブログ『酒神礼賛』さんから引用  http://blog.goo.ne.jp/barbaresco1999

 
 何と美しい「情景」でしょう。設定だけならば、単なる尻軽女の悩みなのだけれど、この現代の神話の様な美しさはどうでしょう。子供たちの生活を、悲劇的な詩情でもって表現したコクトーの『恐るべきこどもたち』を思い出させるよう、、。


 まだ迷信の強く残る時代、西洋においては人を狂気に誘い込むとされた月、その月明かりに包まれ、軽率な妊娠を男が赦すというスキャンダラスなテーマはこの曲の聴こえ方にどのような影響があったのだろうか。今となってはそこまで刺激的なテーマではなくなり、単なる美しさが強く感じ取られてしまう。
 ロシュフーコーの「太陽と死は誰にも直視できない」の箴言や、カミュの『異邦人』での太陽と死の結びつきのイメージは日本人の僕にとっても容易に思いつく印象的な組み合わせなのだけれどここではその逆の「月」と「生」がセットにされているのも独特の雰囲気を醸していると言えないだろうか(もっとも異邦人は1942年刊)。
 

 作曲された1899年頃のウィーンとは、何と(僕にとって?)魅惑的な時と場所だろうか。クリムトが前年に第一回ウィーン分離派展を開き、マーラーが同年に『嘆きの歌』を発表している。この時代が好きというよりも、この時代に挑戦的に作られたものの多くが、今僕の様な庶民にもようやく理解できる程に古典化されただけなのかもしれない。
 
 デーメルの詩に近いのは、音の数や静謐さから元々の弦楽六重奏による演奏だと勝手ながら思っていますが、曲の持つ神秘さがよりデフォルメされるのがオケ版だと感じています。今も聴きながら書いていますが、カラヤン/ベルリンSOのものは定番かつオススメ(&安い)であります。
 最近では、D F# D F# A D E F#(リズム無視)の唯のアルペジオの様なメロディーが、頭の中を四六時中ぐるぐる回っているのであります。ともするとスッペの『詩人と農夫』みたいなのに(これはこれで美しい^^)なぜこうも心が打たれるのか、音楽は不思議だ。

 

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テーマ:音楽的ひとりごと - ジャンル:音楽

【2009/04/05 01:07】 | 音楽 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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