ピアニスト、チャールズ・ローゼンの『ピアノ・ノート』を読んだ。
http://www.msz.co.jp/book/detail/07489.html ![]() みすず書房の案内レターでみた時から、すぐに読もう!と思わせる期待度大の本だっだけど、果たしてその内容はそれに沿う素晴らしいものでした。 著者は有名なピアニストであるが、書く文章にも定評のある、あのエドワード・サイードをして「音楽について文章を書く人間で、ローゼンのような才能をもつ者は他にいない」と言わしめるほど(本書あとがきより)。サイード自身もバレンボイムと対話する『音楽と社会や』『音楽のエラボレーション』など佳作がある中でこのように言うのだから間違いのないことでしょう。 ひたすらピアノについて書かれたこの本はピアノを取り巻くあらゆる環境、ピアノの生成の歴史、演奏の歴史、テクニックの進化、音楽業界の変遷、聴衆の意識の変化、をあまさず取り上げる。情熱的に、客観的な話を語る著者の話には単なる一面からみた浅い話ではなく、ピアニストとして、一人の聴衆として、一人のビジネスマンとしての長い経験に基づいた説得力に満ちた文章がちりばめられています。 この本を読んで色んな意味で印象に残った文章をいくつか挙げますね。 「モーツァルトのピアノ音楽で、ピアニッシモがフォルティッシモと隣接するのはただ一ヶ所しかないが(後略)」 「(レコードの演奏について)こういう細部の特異性は最初聴いたときは新鮮だが、(何度も聴いて)その箇所が予測できるようになると力を失うからである」()内はこぐまの補足です 「~少々説明が必要なのは、優れたピアニストが調子の悪い日に凡庸でパッとしない演奏をしても、それが完璧な演奏のときと同等の喝采をうけるのはなぜかという逆説的問題だ。 人の耳に聴こえてくるのは、大半が期待している音である(後略) ピアノのことのみならず、今日のコンサートや音楽のあり方についてもカバーする汎用性の高い文章で思わず線を引くところが沢山ありました。 演奏の解釈と、コンサートについての箇所は特に興味深く、「演奏は、つねに音楽との新鮮な出会いを印象づけ、作品に対する尊敬に満ちた独創的アプローチをともなわなければならない」。 なんどか批判的に書いているけれど、一年のうちに何十回もほぼ同じプログラムで演奏会をしまくり、海外から来るチケット代をボッてくる一流ピアニストと同額かそれ以上の支払いを余儀なくされる「日本を代表するピアニスト」フジ子のことがこの本を読んでいる間によく想像された。何も世に問うことができない意味のない音楽の一方、チケットがそれなりに売れるビジネスの成功という側面が、今日の音楽を考える上でいいサンプルになっている気がするのだ。 暇つぶしでもファッションでもない、本当に音楽が好きな人ならばためになる上質の一冊です。 ↓面白かった、という方はついでにポチ!お願いします。 ![]() |